スペード的学園生活
〜愛はなくとも闘いましょう!〜


BY:氷高颯矢





私の名前はアヴィス
セントゥル学園3年月組、《クローバー》のQを務めています。

この学園は、大きく分けてクラス専攻が4つあります。
私の所属する《クローバー》は能力が体質に起因する者達を集めたクラスです。
神職を輩出するのは《ハート》、魔法使いを輩出するのは《ダイヤ》、
そして剣の道を行く剣士系を育てるのが《スペード》――。






「アヴィス!」
 淡紅色の柔らかい髪を高い位置で1つに結んだ少女が駆け寄ってくる。
ヴィアンカ。どうしたの?陽の曜日なのに、こんなに早起きして…」
「うん、今朝はね、アレサお姉様シン様が手合わせをするらしいんだ!だからボクもついでに手合わせしてもらおうかと思って…」
 何故か照れるヴィアンカ。
「それはそれは見物ですわね」
「でっしょ〜?」
 クスクスと笑っているとヴィアンカが窓枠を乗り越えて隣に来た。
「アヴィスもおいでよ」
「…そうね。でも――私、ヴィアンカみたいに窓から出入りするのは…」
「じゃあ、後からおいでよ。良い席、確保して待ってるね!」
 そう言うとヴィアンカは勢い良く窓枠を蹴って飛び降りた。そして、そのまま走って行ってしまった。




「…困った人ね」






 アヴィスはヴィアンカの言う『手合わせ』が行われるという闘技場に向かった。闘技場は円形になっていて、ギャラリーがたくさん居た。
「あ〜、アヴィス!こっちこっち!」
 ヴィアンカが手招きした先には一人分のスペースがきっちり空けられていた。
「お待たせ、ですわ」
「やっぱりアヴィスの為の席だったんだな」
「…?ええと…どなた様かしら?」
「おいっ!」
「冗談ですわ、カガリ殿
 銀髪の青年は引きつった笑みを見せた。
「ちょうど良い時間に来たね。始まるよ」
 穏やかにグリフィスが皆に声をかける。歓声が上がり、《スペード》の頂点であるシンとアレサの試合が始まる。

「では、お互いに礼――」
 シンとアレサは礼をする。そして、お互いに少し下がって構えた。
「始め!」
 跳躍は同時だった。が、アレサの方が高い。
「はぁぁっ!」
「ちぃっ!」
 アレサの槍が雨のように降る。シンはそれを全て撫で付けるように槍の切っ先を逸らす。シンは着地するとくるりと回転し、足払いをかける。軽く飛んで避けたアレサに向かって更に蹴りが入る。足技に目が行くが、隙を見つけては剣戟を挟む。シンの動きは円の動きだ。だが、アレサも負けてはいない。接近戦に槍は不利である。しかし、素早い身のこなしでかわしていく。

どっちが勝つと思う?」
「そりゃあシン様だろ?」
「へぇ〜いつもはアレサお姉様、アレサお姉様ってうるさいのにそういう時はシンなんだ」
 茶化すようなカガリのボディーに拳を立ててパンチを入れる。
「うるさいなぁ。いいから黙って見てろよ!」

 その時、上空からシンを狙ったアレサの槍の先を蹴ってシンが剣を一閃させた。その衝撃でアレサが弾かれる。
「一本!シン=ラギーニ!」
 歓声が大きく響く。
「…やっぱり、シンには敵わないな…」
「アレサに負けたら俺の立場はないからな。手加減は性に合わないし、お前に対して失礼だしな」
「実戦なら私にも勝機はあると思うんだけどな…」
「その時は俺も全力で挑むよ」
 そう言って笑うシンをアレサは眩しそうに見つめる。そして、2人は握手を交わした。
「さぁ、次は俺の番です。シン先輩」
 客席から飛び降りたのは蒼い髪の美男子。どこからともなく現れたファンらしき女子連中が声援を送る。

「「「きゃ〜リィト〜!」」」

 リィトは微笑みを浮かべながら手をひらひらと振った。
「リィトか。良いだろう、始めよう」
 リィトは剣を構えない。審判が開始を告げる。
「始め!」
 リィトは両腰に着けた細身の剣を抜く。不思議なのは刀身が根元の部分で2つに分かれているのだ。シンの剣を右の剣で挟む様に受け、捻るように力を込めてシンから剣を奪いに掛かる。が、すぐさまシンの蹴りが入る。
「くっ…!」
「剣にばかり集中していてはやられるぞ、リィト!」
「見惚れるなっていう方が無理ですよ…その七星剣!」
 離れた間合いを詰めて掛かる。左右から蹴りを交えて繰り出される剣に逆にシンが受身に回る。だが、冷静に力を流していくシン。そして、突然シンが跳躍して距離を取った。
「…ならば存分に見せてやろう」

我が剣は至高の煌き、暁を統べる獣の王よ、我に応えて力を示せ!牙を剥け《獣王アスラン》

 シンが剣戟を放つとそれは朱金の輝きとともにリィトに牙を付き立てる。リィトは剣を十字に組んで何とかそれを受け止める…が、受け止め切れず壁際に吹っ飛ばされる。
「――かはっ…!」
「リィト!」
 アレサがリィトの元に駆け寄る。
「――大丈夫、ですよ」
 リィトはよろよろと立ちあがる。
「シン!手合わせにこんな大技を使うなんてやりすぎよ!」
「はたして、そうかな?あのまま剣だけで争っていては体力を削り合うだけの持久戦になっていたはずだ。俺とリィトにそれほどの差はないからな」
「それは光栄だな…」
 リィトは満足げに微笑む。
「あの方から引き継いだこの地位、やすやすとは譲れんという事だ」
 シンがリィトに肩を貸してやる。
「俺達は退散するが、このまま練習試合をしたい者は続けよ」
 シンは一言そう言うとリィトを連れて行ってしまった。

 一方、客席はというと…
「凄かったな、シン様の必殺技…」
「必殺って…それだとリィトは死んでるって…」
「あの程度の力の押さえ方でしたらアバラは2〜3本、確実に折れてますわね」
 アヴィスが冷静に感想を伸べる。
シンお兄様は剣士としてより、神官としての能力の高い御方ですから…どうしても剣だけでリィト殿を圧倒するというのは難しいのでしょう」
 にっこりと毒を吐くアヴィス。
「それってあのリィトのヤツがシン様と互角だっていう事?!」
「そうじゃないかしら?」
 ヴィアンカは心底イヤそうなカオをした。
「それってカガリに一本取られるくらいイヤな事だな〜」
「おいっ!黙って聞いてればどういう事だ、それ!」
「だってカガリに負けるなんてボクにとっては屈辱だよ!」
「だったら、屈辱的な気持ちにしてやろうじゃないの」
「やるっての?」
 2人はしばらく睨み合いをした後、闘技場に向かって客席を降りていった。
「あ〜あ〜…行っちゃったよ。こりゃ、審判をしないとダメそうだ…」
 グリフィスはため息を零しつつも、渋々闘技場へ。
「頑張ってね、ヴィアンカ」
 アヴィスは楽しそうにその光景を眺めている。


ちょうどセレヴィの下、シオンたちより上の世代の話です。
イラストではすでにヴィアンカ、リィト、アヴィスを描いてますが。
詳しくは年表をみて下さい。
桜杜冬音先生のところの主人公・カガリくんがちらっと登場してます。
この後、3つの本編にも登場する人物も居ますので、心の隅に留めておいて頂ければ幸いです。
最強世代(セレヴィの代)も書きたいけど、まだ書く時期じゃないと思うので控えてます。
シン時代は比較的平和で書き易いですね。